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カスタマーズ・レヴューは役に立たない?(1)

 先ごろ、神戸女学院大学の内田樹さんが『村上春樹にご用心』という本を出した。自身のブログで書かれた村上春樹に関する記述を1冊の本にまとめたものだが、すでに書かれたネット書店のカスタマーズ・レヴューをみると、(予想通り)否定的なものが多い。現時点で4人のコメントがあり、「がっかりした」「村上人気にあやかった筆者のいやらしさだけが目立つ本」と、その表現は実に辛辣だ。
 インターネットやブログが存在しなかった頃、売れっ子作家が単行本を出すのは、書き下ろしではなく、雑誌や新聞に寄稿した連載やコラムをまとめるというケースが多かった。雑誌や新聞というメディアは基本的に「読み捨て」だから、繰り返し見たいという人にとっての記録性が低い。そういうニーズを実現するには、書籍という形にまとめるのが一番だ。ケータイで小説を読む人もいるようだが、今後インターネットの技術がどんなに進歩し、雑誌や新聞から得た情報の大部分で、ネットから得られるようになったとしても、書籍という形は必ず残る、といわれるのはそのためだ。
 一方で、ものを書き、それを発信することは、今の時代、誰でもできる。そのコストはほとんどゼロだ。そして書かれたものの多くはタダで、誰でも読める。インターネットがなぜこれだけ短期間で爆発的に普及したのかといえば、情報を得る手段を自分で確立させすれば、その費用はすべてタダ!というところにある。
 書籍という商品になり、対価を払ってその文章を読んだ時、今までタダで読めたものと内容がほとんど同じだったので、納得できない!というのが、上記レヴュアーの理屈なのだろう。
 ネット書店では、こういう感情的な不満が、誰でもかけるカスタマーズ・レビューとして、第3者にむけて公開されている。しかも書き手は匿名だ。しかもそのレヴューに、過半数の人が「参考になった」と投票している。ネット社会では、同じような意見をもつ人が少なくないのだろう。
 以前とりあげたディスクレヴューでもそうだが、ネット社会の論評は、論理的よりも感情的に走りやすい。また肯定的な意見よりも、否定的な意見が支配的だ。そして何よりも後者の伝播するスピードが圧倒的に速い。これは誰もが意見ができるフラットな構造、匿名でものが言える社会の傾向として、しっかり留意しておく点である。

■内田樹さんの『村上春樹にご用心』をお求めの方はこちらまで。
by makotogotoh | 2007-10-03 12:34
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