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2007年最後の大ニュースです。これ。(山本隆)

2007年最後の大ニュースです。これ。(山本隆)_a0107397_228419.jpg 12月7日、ディスクユニオンが『Tommy Flanagan/The Complete OVERSEAS +3 ~50th Anniversary Editon~』(DIW-488)を発売する。「コンプリート」に「+3」とはどういうことか。ややこしいので整理しておくと、『OVERSEAS』は、1957年に録音されたTommy Flanaganの初リーダー作。『The Complete OVERSEAS』とは、1984年にDIWが発売したそのCD(LPもあった)で、オリジナル・アルバムの9曲に別テイク3曲を追加されている。今回の『The Complete OVERSEAS +3』は、さらに新たに発見された別テイク3曲をさらに追加したもの。要するにオリジナル・アルバムの9曲に6曲の別テイクを追加した『OVERSEAS(+6)』である。約66分収録。お値段は2500円。



 LP版『OVERSEAS』しか知らない人もいると思うので確認しておくと、1984年に発見された別テイクはDalarna(take2)、Verdandi(take2)、 Willow Weep for Me(take1)の3曲。そして今回新たに発見された別テイクはChelsea Bridge(take1)、Dalarna(take 1)、Chelsea Bridge(take 2)の3曲。なお現在発売中のOJC版『OVERSEAS』には、3つの別テイクと称し、マスターテイクと同じテイクが3つも入っている。

 山本隆氏の新譜資料によれば《往年のジャズ・ファン、ベテランジャズ・ファンの方にも悦んでいただけるように、音質の改善、向上に頑張りました。(中略)2007年最後の大ニュースです。これ》とある。
 再発される度に改善しているはずの音質に対し、明らかに改悪されるケースが多いのがフェイドアウトの早さだ。かつてテイチクから発売されたLPに比べ、CD版の『Complete OVERSEAS』の〈Eclypso〉を聴くと、フェイドアウトまでの時間が早くなっている。一度編集されたマスターテープを、さらに編集するからだと思うが、演奏時間がどんどん短くなっている。今回のCD化が、LPで使用したオリジナル・マスターを編集していればよいが……。頑張れ、山本隆!
 何度も再発され続けてきた定番『OVERSEAS』を持っているジャズ・ファンはかなりの数にのぼるはずだ。今回、新発見された3つの別テイクのためだけに、LPやCDですでに持っているファンも、これを買わなければいけないだろうか……。

 まず第1に、そもそも追加曲とは、オリジナル・アルバムの完成度を低くする、余分なものだ。別テイクや未発表曲は研究家に興味深い対象でも、大半の人にとっては日常的に聴くものではない。一度聴けば十分のものが多いのだ。聞き比べて「やっぱりマスター・テイクの方が出来がよい」という当たり前の結論に達する可能性が高い。
 次にユーザーの対費用効果だ。別テイク3曲のために2500円の出費は、ちょっと痛い。そこで新発見の別テイクのみ1曲100円程度でダウンロードできるようにすれば、その費用は300円程度で済む。300円ならまぁいいか、という値段だ。売る側は利益が減ると否定的に受け取るかもしれないが、ネット配信時代であり、超有名盤の別テイクだけに、こうした実験的試みをするには絶好の機会である。もっと頑張れ、山本隆!

 かつてトミー・フラナガンにインタビューした時、『Complete OVERSEAS』で公開された別テイクは、フラナガン本人の許諾なしに発表されたものだった。フラナガンにしてみれば、録音の際にはマスターテイクのみが公開されることが前提だったのに、録音から27年後、自分の知らぬところで勝手に没テイクが公開されることに不快感を隠せなかった。
 2007年11月16日は、2001年に他界したフラナガンの6回目の命日。こうした音源は命日に合わせて発売するのが、アーティストへの敬意というものだろう。今回の発売でDalarna(take 1)と、2つのChelsea Bridgeが聴けることは、個人的には歓迎する。けれど、しかし天国のトミーやダイアナ未亡人は、この事実をどう受け止めるのだろうか。

PS:今回のCDには、これまで発売された『OVERSEAS』の全ジャケットを掲載されるという。さらに時期は未定だが、オリジナルEP盤(3枚)の復刻も予定されているらしい。一体何種類の『OVERSEAS』が出れば気が済むのか……。レコード・マニアの欲望には限りがないようだ。
by makotogotoh | 2007-10-21 00:11
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