タイムの歴史

 タイムといっても、ボブ・シャッドが設立したブッカー・リトルやソニー・クラーク、マックス・ローチの名盤が並ぶ、あのジャズ・レーベルではない。
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 東京新聞の平成19年12月26日朝刊「情熱/解剖図鑑」に「生音刻む中古レコード」というタイトルで、高田馬場の中古レコード店「タイム」の渡辺信(34)さんが紹介されている。




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タイムは都内のディスクユニオンと並んで、私がもっとも足繁く通った中古レコード屋だ(その昔、上の世代のコレクターが通ったという数寄屋橋のハンターや神保町のトニーレコードには、ほとんど行っていない)。その他、西新宿にあったオザワレコードやコレクターズ、トガワレコードにも通ったが、当時、目白の近くに住んでいた私には、ちょうど散歩気分で歩いていける高田馬場がよかったのだ。
 高田馬場~早稲田は今も昔も学生の街だ。今でこそカラオケやコンビニ、無数の飲食店(チェーン店が多い)が並ぶが、昔は古本屋とレコード屋が圧倒的に多かった。
中古レコード屋では、紺野哲夫さんがやっていたレコードギャラリー(住所は豊島区高田)や、ジャズ雑誌にいつも大広告をうっていたディスクファン(現在は閉店)など、中古レコード屋もたくさんあった。なかでもタイムには、とにかく新譜の流出が早かったし、たまに出る廃盤も、他の店に比べて安かった。とにかくいろんなものが手頃な値段でよく出たのだ。
 2年前に亡くなった創業者の能登満さんには大変お世話になった。今だからいえるが、私が学生の頃から物書きの仕事をやっているのを彼は知り、いろんな話をした。近くの書店にもしょっちゅう通っているのか、関わった単行本や翻訳本が出ると、忌憚のない感想を聞かせてくれた(知人には新刊が出ても伝えなかったのは、なんとなく気恥ずかしかったからだ)。
 どんなに偉いといわれる人であっても、人はひとりで生きてはいけない。
 今から思えば、能登さんは私の音楽人生を支えてくれた恩人のひとりだ。

――タイムはいつ創業したのすか?
渡辺:お客様の話では、昭和46年に創業開店したと聞きました。しかし今年の大改装時に古い借用書?を倉庫から発見、その中には能登社長の直筆で昭和38年と記載されていました。ですので、恐らく昭和38年が正しいかと思われます。生前に聞いとけば良かったですね。
――能登さんは中古レコード屋を始める前、どこで何をされていたのですか?
渡辺:東京の神保町の生まれと聞いております。実家は戦前からレコード店を営んでいたみたいです。Vディスクなどリアルタイムで見聞きしていた様です。大学卒業後に実家のレコード店の経営に参加し、その後独立して新品のレコード店を経て中古レコード店タイムを開店させます。
――神保町の生まれなのに、なぜ高田馬場で開業されたのでしょう?
渡辺:本当は神保町に出店したかったみたいです。しかし家族や親戚のゴタゴタで神保町をあきらめ、高田馬場に出店しました。大学(学生が集まる場所)がある土地を候補として考えていたみたいです。余談になりますが、能登社長の結婚式の仲人は当時近所に住み常連客の一人、五味康祐さんです。葬式の日に社長のご友人から伺いました。
――少し離れた早稲田通りの北側に、まだタイムの看板が残っています。あれは?
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渡辺:創業地があそこになります。お店は狭かったみたいです、5~6坪くらいではないでしょうか?シングル専門店ではなくLP、EPどちらも扱っていました。6年から7年くらいそこで営業し、現在のビルに移りました。今のビルが築約30年みたいですので。 逆算するとやはり創業は昭和46年になりますね。謎です。

能登さんは、この店で働く若者に、機会あるごとに独立(中古レコード屋の開店)を薦めていた。タイムで修業し、のちに開店した人は以下の4人だ。
木ノ内さん⇒三鷹パレード(営業中)
小原さん⇒御茶ノ水マーブルディスク(営業中)
堀さん⇒池袋ハリーライム⇒高田馬場ハリー(現在は閉店)
渡辺さん⇒池袋メロウトーン⇒タイム

 結局、子供のいない能登さんの「後継者」となったのが、渡辺さんだった。 現在のスタッフは渡辺さんを含めて6人。かつて学生の娯楽といえば映画、本、そして音楽。小難しい哲学書を片手に大音量のジャズ喫茶に通うことがファッションだった。
 しかし昔に比べ、音楽以外の娯楽(ゲーム、携帯電話など)も増え、音楽の相対的な位置は下がってしまった。それでも渡辺さんのように「音楽という文化を守ろうとする若い世代」がいることは頼もしい限りだ。若い人には「年寄りを大切にしろ」という。だが、経験と知識に富む年上の輩は、志のある若者を正しい方向に導く必要がある。
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by makotogotoh | 2007-12-30 00:01
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