音楽的な興味に加えて、将来の養老年金のためにも是非1枚入手したい(ビル・リード)

a0107397_12304653.jpg たった1枚のレコードを残して消息を絶った女性歌手。その消息を探す旅というのは、マニアにとってワクワクするような企画だ。ライナーを書いたビル・リードは、アマゾン秘境を探検する川口浩か、埋蔵金を求め巨大ブルドーザーであちこちを掘削し続ける糸井重里のように、可能な限りの証言と資料を求めて放浪するが、結局、彼女の居場所はつかめない。
《それは、才能的にトップクラスとはいえなくとも(実際にはかなり上手いシンガーだったが)、彼女のアルバム“Here Comes Carole Creveling”がコレクター市場に出ると相当の値段になるからである。タイトルには“Volume One”とついているが、続編は作られなかったはずだ。もし存在するなら、音楽的な興味に加えて、将来の養老年金のためにも是非1枚入手したいところだ。
(中略)現地の公立図書館へ行き、1955年ごろの電話帳にCarole Crevelingを見つけた。そして同じ住所にGeorge W. and Florien Creveling。キャロルの両親だろうか? しかしその住所にCreveling姓の家は存在しなかった。アルバム・カバーのように、キャロルが海から現れることを半分期待していたが、願いは見事に打ち砕かれてしまった
 1955年に録音された唯一?のアルバムに、その翌年発表されたシングル用の2曲を追加しての復刻。当時売り出し中のクリス・コナー(ほどではないが)を思わせる、ほどよくハスキーな声質、素朴な歌唱がどこか愛おしい。
 こういう作品が復刻されることは、同じ名盤だけが何度も繰り返して復刻される状況よりも、少なからず意義深い。この再発で彼女に対する認識が高まり、リードも調べられなかった新事実が判明するかもしれない。リード探偵の活躍に幸多かれ。2007年8月22日発売。XQAM-1021
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# by makotogotoh | 2007-09-02 12:32

お金以外の価値・基準とは?

中央公論2007年9月号 特集「親」が壊れている 対談●吉本隆明(詩人・評論家)×内田樹(神戸女学院大学教授)より
《内田:(前略)今の若い人は「たった一つの度量衡」で物を測ろうとしている。要するに「お金」なんですよ。格差社会を批判する言説も、要するにお金の再分配の話しかしていない。お金をいくら持っているのか以外に差別化・序列化する基準がないということに国民的合意が存在しているかのようです。(中略)それぞれが自分固有の度量衡で人間の価値を測っていれば、「格差社会」などなくなる。僕はそう思うんです》

ゲーテ2007年10月号 特集 品格のある仕事 村上龍「仕事における品格・美学」より
《(前略)仕事は何としてもやり遂げ、成功させなければならないものだ。仕事に美学や品格を持ち込む人は、よほどの特権を持っているか、よほどのバカか、どちらかだ。問題は品格や美学などではなく、Money以外の価値を社会および個人が具体的に発見できるかどうかだと思うのだが、そんな声はどこからも聞こえてこない》

文芸春秋SPECIAL 2007年秋号 堺屋太一「日本人と仕事――有利よりも好きを選ぼう」より
《(前略)「仕事は自ら満足のため」とすれば、仕事をすることで得られる満足(あるいは辛さのによる負の満足)と、仕事で得られる所得が与えてくれる消費の満足との総和の最大値が求められる。これからの時代、所得の高い「有利な仕事」よりも、満足の大きな「好きな仕事」を選ぶべきだ

 内田さんも村上さんも、今の社会に、お金以外の価値基準がないことを指摘している。堺屋さんは、お金以外の価値として「その仕事が好きかどうか」という基準を提案している。
 たしかに、自分の判断基準で「好き」といえる仕事をしている人や、金銭的な価値とは別に、好きといえるものを持っている人はそれだけで幸せだ。しかし他に好きなものがなく、お金が絡んだものが好きという人もいる。ジャズが好きな人で、レア盤ばかり集めている人だ。
 長年、復刻されなかったアルバムが久しぶりに再発されると、《オークションで○万円を越える高値で取引されていた盤》という宣伝文が必ずつく。こういう文章を見ると、(過去に高値で取引されていた=将来、自分が処分する時も高値で売れるはず)あるいは(高いお金を出してでも欲しい人がいる=内容がいいに違いない)と錯覚し、購買意欲をそそられる人が多いのだろう。
何を好きで何が嫌いなのか、自分で判らないから、とりあえず将来お金になりそうなもの(珍しいといわれるもの)を集めてみる。どこかの雑誌で○○さんが紹介していたから、きっとそうなのだろうと、思い込む。自分の基準や自分の判断はどこにも存在しない。内容そっちのけでレア盤ばかり紹介したカタログが書店に並ぶのは、こうした需要が反映している。
 結局のところ、レア盤を追いかける人たちや、レア盤を紹介したがる若者たちは、どういう人たちなのだろう。ジャズが好きなのではなく、ジャズが好きな自分が好き。将来、ご自慢のコレクションをできるだけ高値で売り抜くための布石を打っているだけかもしれない。
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# by makotogotoh | 2007-09-02 08:45

We Get Requests/Janet Seidel Trio


ジャネットは、ブロッサム・ディアリーやドリス・デイを思わせるキュートでさわやかな声で知られるオーストラリアの歌姫。今回は、聴衆のリクエストに応じたライヴ盤。リラックスした雰囲気のなか、誰もが知っている有名曲から、誰も知らないマニアックな曲まで、緩急自在にテンポよく歌っていく。2003年のアデレイド・キャバレー・フェスティバルでの録音。ライナーノーツは2007年7月26日、77歳で他界した青木啓。これが遺稿かもしれないと、複雑な気分だ。
青木さんの解説を読む度、こうした文章が理想的なライナーノーツなのだ、という気持ちになる。聴き手に伝えるべき情報(制作の背景、演奏者のバイオ、楽曲の出典など)に触れ、聴きどころとなるポイントを控えめな評論としてさりげなく記す。《博学ではあるけれど、知識は絶対にひけらかさない》という姿勢を貫いた。そして文章全体から、なによりも演奏家への敬意と愛情、そして芸能全般への情熱が感じられる。青木先生にはまだまだ知識もキャリアも及ばないが、こういう文章を安定して書けるようになりたい。2007年7月25日発売 MZCF-1135
PS:有田芳生さんも愛聴されているようです。
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# by makotogotoh | 2007-09-01 10:37