Tokyo TUC という場所のこと。

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「普通のライブ・リポートではなく、もっと店のことを書いてほしい」と、Tokyo TUCの田中さんから言われた。
Tokyo TUCはどういう店か。まずこちらに、概要と「3つの特徴」が記されている。
■TokyoTUCは・・・
 「世界でここにしかないJAZZを提供しつづけていく。そんなClubでありたい」との信念のもとスタッフ一同 たとえ小さくとも 日夜一丸となって努力をいたしております。
①ご飲食のオーダーなどはあまりお気になさらず、ここでしか味わえないJazzをこころゆくまでご堪能下さい。
②アーティストとお客様の健康のため、ホール内は終日全面禁煙とさせて頂いております。ご喫煙の場合はエントランス付近の灰皿をご利用下さい。
③陸の孤島にあるJazzの隠れ家です。
田中さんが私に求めたのは、こういったことではないと思う。

TokyoTUCは、東京ユニフォームという会社が運営しており、場所は本社ビルの地下にある。「陸の孤島」とあるように、新宿や南青山とは違って、岩本町は繊維問屋の街。街の雰囲気は、大阪の船場に似ている。ユニフォームという(ジャズとは関係のない)ビジネスを営みながら、生演奏が聴ける場所として、ジャズという稀有な音楽をサポートしているのだ。

セカンド・セットが始まる前、田中さんはステージの前で、オーディエンスに向かって、こんな「お願い」をした。
 「アンコールの演奏がよかったら、拍手だけでなく、スタンディング・オベーションで、アーティストたちにその気持ちを精一杯表してください。終演後はアーティストと話をして、サインももらってください。写真も、ぜひ一緒にお撮りください」

この時、この空間が小学校の教室になったような錯覚を覚えた。田中さんが先生に見えた。
田中さんは「小さなお願い」をしたが、実はこれ、コミュニケーションに関する「生きた教育」である。
ライブハウスという空間ではどうふるまうべきか、アーティストとどう接するべきか、オーディエンスに「マナー」を教えているのだ。これがテープにあらかじめ録音されたアナウンスでは効果がない。
田中さんがオーディエンスの目の前で、自分の声で、自分の言葉でしゃべるから、耳を傾けるのである。

Tokyo TUCはオーディエンスがどうすればより音楽を楽しめるか、アーティストがどうすればいい演奏をしてくれるかをつねに考えている「気配り」と「工夫」の店なのだ。

セカンド・セットが始まった。拍手や歓声の迫力は増し、演奏も熱気を帯びていく。アンコールが終わると、田中さんのお願い通り、客席は総立ちになった。聴衆はミュージシャンたちに惜しみない拍手を送る。
ここで田中さんは会場の照明を少し明るくした。アーティストたちに喜んだお客さんの表情をちゃんと見て欲しいからだ。「要するに、こういうことなんですよ」と田中さんが語りかける。すごい配慮、心配り、演出である。
終演後、お客さんとメンバーがあちこちで歓談、即売のCDも飛ぶように売れる。アーティストたちも、せっせとサインや記念撮影で忙しい。頭が下がった。

景気が悪いという。その状況でライブハウスの役割とは何だろう。
まずオーディエンスにはいい音楽を、ミュージシャンには最良の環境を提供することだろう。もうひとつ重要な役割がある。それは「オーディエンスとアーティストが心をひとつにする空間である」ことだ。
かつてアーティストがいい演奏をすれば、その空間では自然と心がひとつになった。しかし、いまやコミュニケーション能力が問われる時代だ。田中さんの「お願い」は、オーディエンスひとりひとりに考える機会を与え、自発的な行動を呼びかけているのだ。
Tokyo TUCは、毎日営業のライブハウスではない。だがそれだけにコンサートの日はスタッフ一同、気が引き締まるという。スタッフが一丸となって、ライブハウス空間を盛り上げる努力をしている、そういう店なのだ。
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by makotogotoh | 2009-11-30 04:11
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